みなさんこんばんは。香取市議会議員のかとう裕太です。
2019年2月12日に会派で行政視察に行って参りました。
今回は岩手県紫波町(しわちょう)で公民連携(PPP)の手法による駅前開発事業、オガールプロジェクトを視察して参りました。
報告書(PDF)に視察の概要をまとめていますので、ご覧いただけましたら幸いです。
2019年2月12日岩手県紫波町オガールプロジェクト視察報告書
https://yutakato.jp/wp-content/uploads/2019/02/05e2c973364730b25c3a0d8492f6966a.pdf
岩手県紫波町のオガールエリア
今回視察したのは官民複合施設のオガールプラザや民間複合施設オガールベース、紫波町役場庁舎、官民複合施設オガールセンターなど、紫波中央駅周辺のオガールエリアです。
公民連携(PPP)って?
公民連携(PPP=Public Private Partnership)とは、簡単に言えば、今までは行政が行ってきた公共サービスの提供を、行政と民間の企業等とが一緒に連携して行うこと、と言えると思います。
民間企業と一緒にやることで、民間企業のノウハウや資金をうまく活用し、公共サービスの質の向上や効率化などを目指す手法です。
最近話題になった水道事業や空港のコンセッション方式や、道の駅水の郷さわらのPFIなども公民連携のうちのひとつのやり方です。
海外では道路やトンネル、水道やモノレールなど、いろいろなところでPPPの手法がとられています。
岩手県紫波町のオガールプロジェクトの成果は?
今回視察した岩手県紫波町では、駅周辺の開発において、図書館などの公共施設とテナントなどの民間施設が一緒になった建物の開発を、紫波町と民間企業が一緒になって行いました。
紫波町は人口3万人ほどの町ですが、PPPの手法によってできあがった紫波中央駅周辺のオガールエリアには、年間100万人の人が訪れるほどになりました。
町には民間企業に土地を貸している賃料や、開発されたことによる固定資産税や住民税などで年間約3,000万円の歳入が発生しているということです。
その他にも人口の流出がほぼ止まったり、地価が連続して上昇するなどの効果が発生し、全国的にも注目を集めるPPPの事例となったようです。
どんな事業が行われたのか、どのような建物ができたのか、どんな雰囲気なのか、というのは報告書にまとめてみましたので、ご覧いただけましたら幸いです。
2019年2月12日岩手県紫波町オガールプロジェクト視察報告書
https://yutakato.jp/wp-content/uploads/2019/02/05e2c973364730b25c3a0d8492f6966a.pdf念のため、報告書の内容をこちらに添付します。
是々非々 会派行政視察報告書
1 視察日程
2019年2月12日(火曜日)
2 視察先及び目的
(1)視察先:岩手県紫波町
(2)目 的:公民連携の最先端の事例を学ぶ
3 視察参加者
是々非々 千年正浩・加藤裕太
4 視察先概要
(1)人 口 33,092人(2019年1月末時点 平成29年度は前年比0.4%の減少)
(2)世帯数 12,029世帯(2019年1月末時点)
(3)面 積 238.98㎢
(4)概 要
昭和30 年に1町8カ村が合併し誕生。岩手県のほぼ中央、盛岡市と花巻市の中間に位置し北上川が中央を流れ、東は北上高地、西は奥羽山脈までの総面積238.98㎢。
町は、大きく分けて中央部、東部、西部の各地域に区分され、中央部は、住宅地を除くと平地に農地が広がり、全国有数の生産量を誇るもち米、生産量県内1 位のそばや麦、各種野菜が作られている。東部ではりんご(県内5位)やぶどう(同1位)、西部では西洋梨などのフルーツ栽培が盛ん。循環型まちづくりで環境と福祉のまちづくりに取り組んでいる。
平成30年9月には2年連続で基準地価が上昇するなど、公民連携のまちづくりで注目を集めている。
5 視察内容
(1)視察目的
紫波町では紫波中央駅前の開発に際して、行政と民間企業が一体となってプロジェクトを進める公民連携(PPP)の手法を用い、複合施設を建設して運営している。プロジェクト開始から10年経過した現在では、年間に100万人ほどが駅前の「オガールエリア」を利用するほどの施設に成長し、多くの人で賑わいを見せている。
香取市でも佐原駅周辺に複合公共施設の建設が計画されている。行政と民間企業が連携して取り組むプロジェクトの進め方や、行政と民間双方のメリットを活かしたまちづくりの最先端事例を学び、佐原駅周辺の開発に活かすために視察を実施した。
(2)視察訪問先
オガール紫波株式会社(紫波町39%、民間企業等61%出資)
オガール紫波株式会社は紫波町のエージェント(官民の調整役)として、紫波中央駅前都市整備事業(オガールプロジェクト)を推進、調整する事業などを行っている。
オガール:成長を意味する紫波の方言「おがる」と駅を意味するフランス語「Gare(ガール)」を組み合わせた造語。
(3)説明者
オガール紫波株式会社取締役 八重嶋 雄光(やえしま ゆうこう)氏
(4)事業概要
オガールプロジェクトは、紫波中央駅前の都市整備事業で、官民複合施設2棟、民間複合施設1棟、紫波町役場庁舎1棟が建つ4つのエリアを中心として、周辺に分譲住宅や岩手県フットボールセンターなどの開発が行われている。
最初の官民複合施設であるオガールプラザは、図書館や地域交流センター、子育て応援センターなどの公共施設部分と、その他テナントの民間施設部分とで構成されている。オガールプラザの建設事業は、土地を紫波町が所有したまま、民間企業のオガールプラザ株式会社(オガール紫波の子会社)に32年の事業用定期借地権を設定し、オガールプラザがSPC(特定目的会社)として資金調達を行い、建設している。建設後に図書館等の公共施設部分を紫波町がオガールプラザから買取り、公共施設部分は紫波町が、民間施設部分はオガールプラザが運営するという形式を取っている。
紫波町図書館がLibrary of the Year (LoY) 2016 優秀賞を受賞
紫波町としては、4つのエリア全体の事業用定期借地権を設定したことによる土地の賃料と固定資産税の増加や、分譲住宅の整備による固定資産税や住民税の増加により、年間約3,000万円の歳入が発生している。今後歳入は年間4,500万円ほどに増加する計画。
この事業の特徴的な点は、収益事業部分である不動産開発を逆算方式で行っている点である。通常の不動産開発は、建物の設計などが終了し、建設が進んでからテナントを誘致することが多いが、この方法だとテナントが入るのか不明確なままで計画が進められてしまい、実際にもテナントが埋まらずにオープンして当初の予定通り進まず頓挫する事例などが多く発生している。
オガールプロジェクトの逆算方式は、まず賃料相場を確認した上でテナントの誘致を開始し、需要に対して適切な必要床面積を設定する。それから設計、建設工事をすることで事業の想定利回りに適した工事価格を決定できる。さらに、先にテナント誘致を終わらせていることで、工事開始の時点だけでなく、オープン時点でも入居率100%を実現することができている。
一方で公民連携のパートナーとなる民間企業のオガール紫波株式会社は、各施設の運営会社への出資や不動産開発、産直販売施設「紫波マルシェ」の管理運営、宿泊施設のレストラン運営などの事業を行っている。主な収入源は産直販売施設の運営となっている。
(5)実施状況
・平成23年4月岩手県フットボールセンター開場
・平成24年6月官民複合施設オガールプラザオープン(図書館・テナント等)
・平成25年10月分譲住宅地オガールタウンの分譲開始
・平成26年7月民間複合施設オガールベースオープン(バレーボール専用体育館・ホテル・テナント等)
・平成27年5月役場庁舎開庁(PFIのBTO方式)
・平成28年12月官民複合施設オガールセンターオープン(こどもセンター・小児科と病児保育室・テナント等)
・平成29年4月民設民営のオガール保育園開園
(6)効果と課題
○効果
・オガールエリアの年間利用者約100万人
・紫波中央駅前の基準地価が2年連続上昇
(H28年37,300円→H29年37,700円→H30年37,900円)
・人口減を前年比0.4%減に抑えられている(年160人の減)
・周辺分譲住宅の57区画完売(建築は町内の指定事業者14社のみ。町産材活用。)
・事業用定期借地権の設定と固定資産税、住民税等の増加分で年間3,000万円の歳入
○課題
・要望の多い駐車場の整備
・以前町の中心だった紫波中央駅を挟んで東側の日詰商店街の再開発
・テナントとして出店したいとの声がかかっているが入居率100%のため断っている現状の改善
(7)主な質疑
Q:新しい事業を公民連携(PPP)という新しい手法で始めるときに反対があったと思うが、どのように説得していったのか?
A:当初反対は多かった。住民に対してはワークショップ等で各地域に何度も説明した。議会や役場内に対しては公民連携室というチームが丁寧に説明を重ねていった。それでもみんなを納得させるのは難しかったが、公民連携のエージェント会社(紫波町の代理人として交渉する会社)が機能して岩手県フットボールセンターの誘致に成功したことで、公民連携なら今までと違ってできないことができるかもしれない、というようにみんなが動いた。
図書館のある建物内に多くのテナントが出店している官民複合施設のオガールプラザ
Q:日本初のバレーボール専用体育館という珍しい民営の施設があるが、利用率は?
A:1日あたり1時間30分以上使われている割合をみれば、100%となっている。こどもたちのチームや部活動での利用、全日本チームなどの合宿、世界大会でのナショナルチームの練習場としての誘致など、他の体育館等の施設では受け入れられない需要も多い。
野球やサッカーなどの方が需要は多いが施設は整備されきっている。ある種ニッチだが、確実に一定の需要が見込まれる施設を高水準で整備する方が町の規模に合っていると考えた。
オリンピックなどでも使用されるTaraflex社の床を備えた体育館は全国でも少ない。
Q:最初の官民複合施設オガールプラザの建設は民間企業が行っているが、どれくらいの建設費になったのか?
A:オガールプラザは延床面積5,822.34㎡で、建設費は11億3,327万円ほどに抑えることができた。図書館の天井を節約したり、テナントには内装等の工事をせずにスケルトン渡しをしたりするなど工夫して、建設費を抑えた。
Q:入居率100%を実現しているということだが、ずっと100%を維持できているのか?
A:テナントの入居率は途中で変動している。やむを得ない事情で閉店するケースもあった。ただ、現在のところ空きが出たらすぐに埋まる状態になっている。念のため契約時点で10年間の賃料は閉店した場合でも支払ってもらう条件で契約を締結している。回収できるかは不透明だが、そういった条件で契約することで一定程度リスクを低減している。
Q:年間100万人が利用するエリアということで、これから出店したいというテナントもあると思うが、入居率100%のため受け入れができず機会損失が発生しているのでは?
A:出店したいというお話はたくさんいただいている。しかし、プロジェクトのスタート時に公募をして、リスクを承知で入ってくれたテナントが優先。増築やエリア拡大などは別途検討していくこともあるかもしれない。
Q:公民連携でプロジェクトを進めて、行政と民間の違いはどのあたりで感じたか?
A:一番感じる違いは、スピード感。行政が進めた場合には民間のスピード感とかけ離れていて、なかなかプロジェクトがうまく進められないと感じた。民間企業が行政のエージェントとして、相手方との間に入って交渉をすることで効率的に、かつ迅速にプロジェクトを進めることができた。
6 所感
オガールエリアを訪れた際に感じたのは、町の規模や需要に見合った背伸びをしないプロジェクトだなということだった。建物等の造りは決して豪華なものではないが、機能的で利用しやすいように考えられている。企画段階から民間企業が参加し、コスト管理やテナント誘致、資金調達など、民間企業のノウハウとスピード感をもって進めることがプロジェクトの成功につながったのだと感じる。
財政が厳しくなる中で、公共施設の維持費というものが重くのしかかってくる自治体も多い。そのような状況下でも、オガールプロジェクトでは自治体が持っている土地に事業用定期借地権を設定して民間企業に貸し出すことで賃料を得て、さらにまちを開発することによって人や企業を集めて固定資産税や住民税なども増やしていくなど、年間約3,000万円の歳入を生じさせている。
視察の中での説明で強調されていたが、従来のまちづくりには補助金に頼った地域の需要に見合っていない事業も多かったようで、東北地方でもテナントが入らずに行政が買い取って公共施設化するような事例も出てきている。短期的にはそういった事業で人も集まるかもしれないが、長期的に見ればその事業の維持費をまかなうことが難しくなり、事業として持続できないことになり、大きな負担を抱えることになってしまう。
岩手県紫波町のオガールプロジェクトを参考として、民間企業とともに稼げるまちづくりを模索し、持続可能なまちづくりを目指していくことは、今後の自治体の進む先を考えるうえで、一つの選択肢になりうると考える。